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飛鳥千尋のサークルEins:Vierの活動報告と石橋トモ(ともぞぬ)の日記
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今分かる事と言えば。
躯が動かない。
声は出るようだ。
背凭れの深い椅子に座っている。
甘い紅茶の香りが漂っている。
「………成程………危機一髪………と言う訳だね………」
「なあに。痛みは感じさせません。怖れや痛みを与える事は私の本意ではありませぬ故」
「………………………」
千影の無言に促される形になったか、老人が続ける。
「つまり………これから貴女の眼を刳り貫き硝子玉を入れ、内臓を捌いて綿を詰めます―――貴女は私の元で永遠に美しい人形になるのです。そして、それには苦痛や恐怖は不要です。作品の貌が―――崩れますからな。時にはそう言った物を喜ばれる御仁もいらっしゃるようですが私の作品は恍惚とした甘美な微笑みを湛えた少女人形―――あなたはそう成るに相応しい」
「………それは………光栄だね………」
千影の皮肉をどう受け取ったか、老人は懐から赤い玉を取り出して言った。
「私はこの―――血紅色の玉を入れるに相応しい素体を求めて夜の町を彷徨っておりました。そして、私は初めて出逢ったその時からずっと思っていたのです―――貴女にその黝い瞳は似合わない。この二つの出逢いが運命で無くて何でありましょう」
千影は肯いた―――肯けていただろうか。
「ならば………一つだけお願いがあるんだ」
「何でしょう―――可能な限りお応え致します」
「左の眼を………先に………してくれないかな………」
「―――畏まりました」
恭しく一礼した。

*

「なあに心配はございません。私もそれなりに医術の心得がございます―――そのお躯に瑕一つ付けず、完成させて御覧に入れましょう」
白い手袋を嵌めた老人の手が、眼帯に掛かる、とその時。
千影の左眼から飛び出した影が―――闇より黒い、虹より眩しい色彩が一瞬のうちに老人を飲み込んでいた。
その一瞬の後、影は再び千影の左眼に消えた。
「だから………そこいらの医者の手に負えるものではない、と………言ったのにね………フフフ」
千影はほんの、ほんの少しだけ口唇の端を吊り上げて微笑する。
「しかし………見事な使い手だった………また逢えるかも………しれないね………」
躯はまだ動かない。
動けるまでに後どの位掛かるだろう。
だが―――良いではないか。
再び躯に自由が戻るまで、こうして月明かりの中で夜空を見ているのも悪くない。
どの道迷っていたのだから―――もう少しくらい遅くなっても。
「ああ、全く………全く悪く無いのだけれど………惜しむらくは………こうして身動きの取れぬ私の躯を玩んでくれるキミが………居ない事だ………兄くん」

第一話 完

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