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飛鳥千尋のサークルEins:Vierの活動報告と石橋トモ(ともぞぬ)の日記
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1-3

ホッホー、ホッホー

 

「………おや?鳥が………啼いているね………」

「あれは鳥ではございません―――それ」

と老人は千影の背後を指差す。

その先―――樹上には鳥にしては余りにも大きすぎるシルエットがあった。

それは梟のようでもあり、人が蹲っているようにも見えた。

目を凝らす。

千影の黝い瞳と、爛々と輝く夜啼鳥のそれと、三本の視線が交差する。

間違いなく其処には人が―――少なくとも人の姿をしたモノが―――千影を凝視しながら啼いていた。

その千影の様子に気が付いたのか。

「そこらからいつも抜け出してしまうようです」

と、老人は周囲の瘋癲醫院を指差して、

「遠くに行く訳でもなく、朝になれば帰って来るので、放っておいているようです」

「ふむ………」

千影は顎に手にやって、何やら思案していたようであるが。

「それにしても………」

と視線を夜啼鳥から外して言葉を続ける。

「………この道は………どこまで続いているのかな………」

先を見やれば蛇行しながら続く川と、それに沿って輝きを放つネオンサイン、それに照らされた桜の木々だけが視界にあり―――

いつまでも、どこまでも続いているように見えた。

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新刊千影本「ネメシス」(収録作品:死の王)ですが
データ入稿の手順に手間取ってまだ入稿できていません(*´д`)
原稿は出来てるんですよホントウ

ワードで作った文書ってオフセット印刷に向かないとか初めて知りました。
(ワード、データ入稿、でググルとイロイロ出てきます)
今まで印刷したブツを直接収めていたので、こういう苦労は知らなかったのですが
ともかく質の高い本は作れるんじゃないかと思います。

表紙イラストは近日中にサイトトップにupしたいと思います。
追われている、というほどでもありませんが、現在5/4のイベント用に
書いているのは咲耶本の原稿で、でも他の小説を書いているときに限って
他の小説のネタが出てくるんですよね。

とりあえず書いておかないと忘れてしまうのでUPしておきます。

今回のお話は普段自分が使わないような変換で読みづらい(というか読めない)
漢字を多用しておりますが、本にした時にはルビが振られると思います。

1-2
*
 
「いい夜ですな」
老人が言った。
千影は肯いた後。
「ああ………寒くも無く、暑くも無い………ちょっと着て行く服に迷ってしまい、挙句薄着をして風邪を引き、剰え拗らせてしまいそうな………そんな………いい夜だね」
そう言って口唇の端だけで微笑んだ。
 
*
 
川縁の二人はやがて並んで歩き始めた。
「目を、患っておられるのですか?」
「ええ………少々悪い菌が入ってしまったようで………」
と、千影は前髪を垂らし隠されていた左目を露わにする。
白い。眼帯をしていた。
「………懇意にしている医者に掛かろうと考えていたのだけれど………前もって連絡を入れていなかったのが悪かった………」
「お医者様が、おられなかった?」
千影は肯いた。
「ふむ。それにしても奇妙な事ですな」
「………なぜだい?」
「この辺りには、眼のお医者はおられません」
老人の言葉に。
「………私はもう少し………あちらの方から来たんだ………」
千影は曖昧な記憶を頼りに指を指す。
「あちらも―――こちらも―――」
老人は首を振る。そして歩いて来た方を指差して。
「この辺りには―――瘋癲醫院しかございませんのに」
瘋癲醫院とは精神病院の古い言い方である。
千影は振り返り、川縁の、路の灯りに目を凝らす。
成程、川を流れる桜の美しさに気を取られ今まで気が付かなかったが、見れば路に街頭は一本も無く、立ち並ぶ瘋癲醫院どものピンクや青、それに黄色などのネオンサインが、煌々と―――
千影たちと夜桜と、川とを照らしていたのであった。

[続く]
1-1

千影は黒い手袋をした指先を口元に持って行き、

「ふむ………なかなか悪くないね」

と、赤黒い、血糊を思わせるルージュを引いた口唇の端を微かに動かし、呟いた。

「たまにはこうして………出歩いてみるのもいいものだね………」

4月のとある夜。

帰り道での出来事。

 

*

 

それは千影が世界で唯一『先生』と呼ぶ、癒し手の住まいからの路であった。

聞いた住所に何とか辿り付いた頃にはすっかり日も落ち、上天には下弦の月。

今宵は珍しく降ろしていた長い黒髪を、蒼白の月光が青紫に染め上げていた。

初めて訪れる地で、日が落ちて周囲の様相も一変してしまい、往路の道筋を見失ってしまった千影は、今、行き当たった川縁の道を揺らゆらと歩いている。

橋にあった川の名前を見て、往路で通り過ぎた道であったような気がした事。加えて川縁にずらりと並ぶ、散り始めの夜桜を見物しながら迷い続けるのも悪くない、と考えたからであった。

その川の名をインターネットで検索すれば、それが日本で三番目に、つまり、S県で一番水質が悪い、と紹介されている河川である事実を知る事が出来た筈だが、そんな評判とは裏腹に、油の浮いた虹色の川に浮かぶ無数の桜の花びらが風に吹かれ舞い降り、そして流れゆく様は色々な意味で幻想的であった。

「全く………全く悪くないのだけれど………嘆かわしきは………この彩りを………美しさを………分かち合うキミが今ここに………いない事だ………兄くん………」

千影は大きな溜め息を吐き―――その吐息は幽かに白く。

芝居掛かった所作で手を広げ―――纏う外套が春の風に靡く。

その美麗さに、己を恥じたかのように月がその姿を雲の陰に隠した。

一瞬の、闇のまにまに。

「お嬢さん、ご機嫌よう」

声。背後からの声。

既に間合いの中だ。

ここまで接近を許してしまったのは、何も眼前の光景と、今此処に無い想い人への追憶に心を奪われていた所為ばかりではなく―――

今も尚、何の気配も感じない。

これが術なのだとしたら見事な、見事過ぎる隠行としか言いようが無かった。

影のように音も立てず振り向いて、千影は声の主を見た。

そこには黒ずくめの正装に、山高帽を被り、杖を突いた白髪、そして口髭を蓄えた男性が立っていた。

しかし―――

千影はその人物を目の当たりにしても、生きているモノの存在を感じ取る事が出来なかった。

だが―――魔女が、現実に此処にいるのだ。

どのような怪異が自分の身の回りにあっても不思議な事ではない。

「ああ、ご老人………ご機嫌よう」

故にスカートの端を摘み、一礼した。

[続く]
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